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さはしじんごろう

佐橋甚五郎

森 鴎外

「中央公論」1913(大正2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,308 字 · 13 页

青空文庫

と、本多はやはり気色を伺いながら言った。

「いや。それは知らぬと言うじゃろう。上役のものは全く知らぬかも知れぬ。とにかくあの者どもは早くここを立たせるがよい。土地のものと文通などをいたさせぬようにせい」

「はっ」といって本多は忙がしげに退出した。

饗応の用意はかねてととのえてあった。使は本多の邸へ引き取って常の衣服に着換えた上で、振舞いを受けることになっていたのである。城内から帰った本多は、ちょうど着換えが済んで休息している呂祐吉に、宗をもってそれとなく問わせた。きょうお目見えをした者の中に大御所のお見知りになっている人はなかったかと問わせたのである。通事の取り次いだ返答は、いっこうに存ぜぬということであった。しかもそういった呂祐吉の顔は、いかにも思いがけぬ事を問われたらしく、どうも物を包み隠しているものとは見えなかった。

饗応に相判などはなかった。膳部を引く頃に、大沢侍従、永井右近進、城織部の三人が、大御所のお使として出向いて来て、上の三人に具足三領、太刀三振、白銀三百枚、次の三人金僉知らに刀三腰、白銀百五十枚、上官二十六人に白銀二百枚、中官以下に鳥目五百貫を引物として贈った。