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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

少将は彼をある倶楽部で見つけた、碁の方の好敵手だと云っていた。その晩は招かれて宴会の席に列したのだが、事件の起った時には、二階の大広間には見えなんだ。どこか下座敷にでもいたのであろう。

だが、私はある偶然のことから、この人が探偵好きであることを知っていた。私が結城家に泊り込んだ二日目であったか、赤井さんと弘一君とが、今度事件の起った書斎で話している所へ行合わせた。赤井さんはその少将の書斎に持込んであった、弘一君の本棚を見て何か云っていた。弘一君は大の探偵好きであったから、(それは、この事件で、後に被害者の彼自身が探偵の役目を勤めた程である)そこには犯罪学や探偵談の書物が沢山並んでいるのだ。

彼等は内外の名探偵について論じあっているらしかった。ヴィドック以来の実際の探偵や、デュパン以来の小説上の探偵が話題に上った。又弘一君はそこにあった「明智小五郎探偵談」という書物を指さして、この男はいやに理屈っぽいばかりだとけなした。赤井さんもしきりに同感していた。彼等はいずれ劣らぬ探偵通で、その方では非常に話が合うらしかった。

そう云う赤井さんが、この犯罪事件に興味を持ち、私の先を越して、足跡を見に来たのは誠に無理もないことである。