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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

その瞳が喜ばしげな光を放っている。

「君、盗まれた金製品の内で一番大きいのは何だと思う。恐らくあの置時計だね。どの位の寸法だったかしら、縦が三寸、幅と奥行が二寸、大体そんなものだね。それから目方だ。三百匁、そんなものじゃなかろうか」

「僕はそれをよく見覚てはいないけれど、御父さんが話されたのを聞くと、丁度そんなものらしいね。だが、置時計の寸法や目方が、事件とどんな関係があるんだね。君も変なことを云い出すじゃないか」

私は弘一君が熱に浮されているのではないかと思って、実際彼の額へ手を持って行きそうにした。だが、顔色を見ると、昂奮こそしているが、別段高熱らしくもない。

「イヤ、それが一番大切な点だ。僕は今やっとそこへ気がついたのだが、盗難品の大きさなり目方なりが、非常に重大な意味を持っているのだよ」

「賊が持運び出来たかどうかを云っているの?」

だが、あとで考えると、何という愚な私の質問であったことか。彼はそれには答えず又しても、突飛なことを口走るのだ。

「君、そのうしろの花瓶の花を抜いて、花瓶丈けをね、この窓から外の塀を目がけて力一杯投げてくれないか」

気違いの沙汰である。