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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

甲田君と私もその御相伴をした。

母屋の二階の十五六畳も敷ける、日本間がその席に当てられた。主客一同浴衣がけの気の置けぬ宴会であった。酔った結城氏が柄になく義太夫のさわりを唸ったり、志摩子さんが一同に懇望されて、ヴァイオリンを弾いたりした。

宴は別状なく終って、十時頃には客は大抵帰ってしまい、主人側の人達と二三の客が、夏の夜の興を惜んで座に残っていた。結城氏、同夫人、弘一君、志摩子さん、私の外に退役将校の北川と云う老人、志摩子さんの友達の琴野さんという娘の七人であった。

主人少将は北川老人と碁を囲み、他の人々は志摩子さんをせびって、又ヴァイオリンを弾かせていた。

「サア、僕は又これから仕事だ」

ヴァイオリンの切目に、弘一君が私にそう断って座を立った。仕事というのは、当時彼はある地方新聞の小説を引受けていて、毎晩十時になると、それを書く為に、別棟の洋館の父少将の書斎へ籠る例になっていたのだ。彼は在学中は東京に一軒家を借りて住んでいて、中学時代の書斎は、現在では、志摩子さんが使っているのでまだ本宅には書斎がないのである。

階段をおりて、廊下を通って、弘一君が洋館に着いたと思われる時分、突然何かを叩きつける様な物音が、私達をビクッとさせた。