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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
あとで考えると、それが問題のピストルの音だったのである。
「何だろう」
と思っている所へ、洋館の方からけたたましい叫声が聞えて来た。
「誰か来て下さい。大変です。弘一君が大変です」
先程から座にいなかった、甲田伸太郎君の声であった。
その時一座の人々が、誰がどんな表情をしたか記憶がない。一同総立ちになって、梯子段の所へ殺到した。
洋館へ行って見ると、少将の書斎の中に(後に見取図を掲げる)弘一君が血に染って倒れ、其側に甲田君が青い顔をして立っていた。
「どうしたんだ」
父将軍が不必要に大きな、まるで号令をかける様な声で怒鳴った。
「あすこから、あすこから」
甲田君が、激動の為に口も利けないという風で、庭に面した南側のガラス窓を指した。
見るとガラス戸は一杯に開かれ、ガラスの一部にポッカリと不規則な円形の穴があいている。何者かが、外部からガラスを切って留め金をはずし、窓をあけて忍び込んだのであろう。現に絨氈の上に、点々と不気味な泥足の跡がついている。
母夫人は倒れている弘一君にはせ寄り、私は開いた窓の所へ駈けつけた。だが、窓の外には何者の影もなかった。無論曲者がその時分まで、ぐずぐずしている筈はないのだ。