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なにもの

何者

江戸川 乱歩

「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页

青空文庫

ととうとう弘一君に結ばせてしまった。この男はやっぱり根が非常識なのであろうか、それとも天邪鬼という奴かしら。

やがて、主として弘一君と赤井さんの間に探偵談が始まった。両人とも今度の事件では、警察を出し抜いて非常な手柄を立てたのだから、話がはずむのも道理である。話がはずむにつれて、彼等は例によって、内外の、現実の、或は小説上の名探偵達をけなし始めた。弘一君が日頃目のかたきにしている「明智小五郎伝」の主人公が、槍玉に上ったのは申すまでもない。

「あの男なんか、まだ本当にかしこい犯人を扱った事がないのですよ。普通あり来りの犯人を捕えて得意になっているんじゃ、名探偵とは云えませんからね」弘一君はそんな風な云い方をした。

喫茶店を出てからも、両人の探偵談は仲々尽きぬ。自然私達は二組に分れ、志摩子さんと私とは、話に夢中の二人を追い越して、ずっと先を歩いていた。

志摩子さんは人なき波打際を、高らかに歌いつつ歩く。私も知っている曲は合唱した。月は幾億の銀粉と化して波頭に踊り、涼しい浜風が、袂を裾を合唱の声を、遙か彼方の松林へと吹いて通る。

「あの人達、びっくりさせてやりましょうよ」