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なにもの
何者
江戸川 乱歩
「時事新報 夕刊」時事新報社、1929(昭和4)年11月28日~12月29日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,449 字 · 77 页
赤井さんの声が続く。
「簡単に考えれば殺人とはただ人を殺す、ピストルを発射するという一つの行動に過ぎませんけれど、複雑に考えると、幾百幾千という些細な行動の集合から成立っているものです。殊に罪を他に転嫁する為の偽瞞が行われた場合は一層それが甚しい。今度の事件でも、眼鏡サック、靴足袋、偽の足跡、机上に投り出してあった日記帳、池の底の金製品と、ごく大きな要素を上げただけでも十位はある、その各要素について犯人の一挙手一投足を綿密にたどって行くならば、そこに幾百幾千の特殊なる小行動が存在する訳です。そこで、探偵が活動写真フイルムの一齣一齣を検査する様に、その小さな行動の一々を推理することが出来たならば、どれ程頭脳明晰で用意周到な犯人でも、到底処罰を免れることは出来ない筈です。併しそこまでの推理は残念ながら人間力では不可能ですから、せめて我々は、どんな微細なつまらない点にも、絶えず注意を払って、犯罪フイルムのある重要な一齣にぶつかることを僥倖する外はありません。その意味で僕は、幼児からの幾億回とも知れぬ反覆で、一種の反射運動と化している様な事柄、例えばある人は歩く時右足から始めるか左足から始めるか、手拭をしぼる時右にねじるか左にねじるか、服を着る時右手から通すか、左手から通すかという様な、ごくごく些細な点に、常に