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さっかとしてのこさかいはかせ

作家としての小酒井博士

平林 初之輔

「新青年 第一〇巻第七号」1929(昭和4)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,190 字 · 5 页

青空文庫

編集者から原稿を頼まれると断るより書く方が面倒がないから大体の場合は書くと言っておられたこともある。じっさい博士の病弱の肉体の中に、あんなに強い精神が、あんなに衰えることを知らぬエネルギーが宿されていたことは驚異に値する。

博士があまりジャーナリズムの波に乗りすぎて、いろいろなものを書きなぐったことを、非難する人や、それを博士のためにおしむ人もあるが、それは一つには博士が、非常に思いやりの深い、ソフト・マインドの持ち主であったことを証明している。編集者がわざわざ頼んできたのをむげに断っては気の毒だと博士は考えられたにちがいないと思う。これは博士のもっていた唯一の弱さでもあったと同時に、一つのヴァーチュー〔美徳〕でもあったと言える。ことにジャーナリズムを蔑視すること蛇蝎のごとき学界にあって、博士のこの砕けた態度は常人のまねられぬところであった。探偵小説の場合でもたくさん書いているうちにはいつか一つぐらいは傑作が書けるかもしれない、それでいいではないかと言っておられたそうだが、それは博士の謙遜でもあろうが、また偽らざる本当の告白でもあっただろうと、私は思う。