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さっかとしてのこさかいはかせ
作家としての小酒井博士
平林 初之輔
「新青年 第一〇巻第七号」1929(昭和4)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,190 字 · 5 页
元来ストーリーにはすべて、筋が大切であるが、探偵小説においては、筋がわけても作品の脊柱となる。そして読者の注意を作者の意のままにひっぱりまわして、最後の数行に至るまで、読者に真相を見抜かせないだけの装置が必要である。これらのことはハートの仕事であるよりも、むしろブレインの仕事である。探偵小説はこの意味で頭脳の小説であると言える。探偵小説の作者に畠ちがいの専門家が多いのはそのためであるが、実にこれは畠ちがいではなくて、かえってこれこそこれらの人々の畠のものであるかもしれないのだ。その意味で小酒井博士もうってつけの探偵小説作家であった。
博士の作品でいまだに私の頭にはっきり残っているのは、初期の作『恋愛曲線』である。これは『人工心臓』などとともに医学博士である博士にでなければ書けない多分に実験的理論的医学の知識を内容にとり入れたものであるが、その構想には奔放な詩人の想像力と情熱とが浸透している。「冷ややかなる情熱の所産」とはまさに博士の探偵小説を形容すべき絶好の文字であろう。
博士はいつか、何か編集者から題を与えてもらった方が物を書きよいと言っておられたことがある。