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さっかときょうようのしょそう
作家と教養の諸相
宮本 百合子
「文芸情報」第六巻、1940(昭和15)年5月下旬号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,291 字 · 9 页
僅か数年ではあったとしても、過去の云うところの教養を身につけていない新鮮さを寧ろ文学の世代としてのよりどころとして発足しようとしていた若い作家たちにとって、退陣の形としてあらわれた過去の教養の尊重の流行は、多くの混迷をわきおこした。そして、現実の文壇処世としては、一般の教養的素地の未熟さを逆に反映してのこけおどしの教養ぶりも出現した。その意味では、この時期における教養尊重の風は、漱石時代より萎靡したものであったと云い得るのである。
幾変転を経て、今日、私たち作家は自身の問題として、教養というものをどう見ているであろうか。これは興味のあることだと思う。文学的教養はこの二三年来実に急速に、容赦なく低下しつつあって、而も、その低下の現代の特質は、作家自身その低下をちっとも恐怖していないように見えるところにある。もし、現実の多岐な発現が、過去の文学的教養の枠を溢れているので、そんなものは今日の作家にとって無意味であるというならば、では、それに代る他の教養、真に現実を把握し、現実の変転の真の歴史的契機にふれ得るだけの科学的な教養、政治的な教養を身につけているであろうか。