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かじつ

佳日

太宰 治

「改造 第二十六巻第一号」改造社、1944(昭和19)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,912 字 · 30 页

青空文庫

僕はもう、いやだ。」

ひとは、恥ずかしくて身の置きどころの無くなった思いの時には、こんな無茶な怒りかたをするものである。

私たちは、おそい朝ごはんを、気まずい思いで食べた。とにかく私は、きょうは小坂氏の家へ行かぬつもりだ。恥ずかしくて、行けたものでない。縁談がぶちこわれたってかまわぬ。勝手にしろ、という八つ当りの気持だった。

「君が、ひとりで行ったらいいだろう。僕には他に用事もあるんだ。」私は、いかにも用事ありげに、そそくさと外出した。

けれども、行くところは無い。ふと思いついた。一つ牛込の瀬川さんを訪れて、私の愚痴を聞いてもらおうかと思った。

さいわい先生は御在宅であった。私は大隅君の上京を報告して、

「どうも、あいつは、いけません。結婚に感激を持っていません。てんで問題にしていないんです。ただもう、やたらに天下国家ばかり論じて、そうして私を叱るのです。」

「そんな事はあるまい。」先生は落ちついている。「てれているんだろう。大隅君は、うれしい時に限って、不機嫌な顔をする男なんだ。悪い癖だが、無くて七癖というから、まあ大目に見てやるんだね。」まことに師の恩は山よりも高い。