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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
この事は一寸政江の機嫌を損じた。かね/″\三亀雄の妻が良家の出であるという理由からか頭が高いということに政江は不満を感じているのだった。が、三亀雄の妻は良家の娘ではあるが、実は養女であって、本当は誰の、どこの馬の骨の子か分らぬ私生児なのだ、という噂を耳にした時、だから政江は喜びの余りひどくそわ/\したものである。
「そうは兄やんの云う通りにも行かんがな、この節は矢っ張り何んやナ、ピアノの一つ位は習わさんことにゃ……」
と言ったものがある。三亀雄だ。政江の機嫌をとる事に敏感なのだ。三亀雄の声は普段もそうだが、殊にこういう場合、いわゆる含み声で、黄色いという形容詞が適わしい。蓄膿をわずらったことがある。夢々感じの良い声とはいえなかったが、このときの政江の耳には大変快かった。三亀雄の妻の早引けは帳消しになった。
「謹聴々々」
伝三郎の妻だ。権右衛門の浪花節が始ったので――。
伝三郎の妻は痩形でどこか影の薄い感じのする顔立ちだが、どちらかといえば陽気好きである。昔流行った小唄を口ずさむ外は、余りパッとしないがのっぺりとした美男子の活動俳優の写真を集めるのが唯一の趣味である。