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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

例の一件をやることにした」

年の暮に、彼のところへ、長崎県五島沖合にある沈没汽船売り込みがあった。引揚げ操作は難業で、悪く行けば投資金丸損とされているのだ。それをやろうというのである。人々は膝を寄せた。

「ラムネのみながら考えたこっちゃが――」と権右衛門は、万一の場合を顧みてこの際児子兄弟合資会社を設立しようといった。後顧の憂いがあっては一か八かの勝負は出来ぬ。それに、毛利元就の教訓。

「千恵造も仲間にしてやれ」

この一言は、政江の口元をほころばせた。千恵造を内地に呼び戻すには、無論賀来子離縁のことが交換条件になる筈との言外の意味を読んだからである。序に、政江の方の離縁は沙汰止みになった。彼女はこゝを先途と喋り立て、「万が一のこともおまっさかい……」権右衛門名儀の預金中、十五万円を政江、十万円を千満子名儀にして置くことの有利さを権右衛門に納得させた。先程の「出て行け」騒ぎが想いつかせた、之はいわば彼女の身分保証令である。その雄弁の間に、然る可き人が千恵造を迎えに渡鮮する必要ありと附け加えることも忘れなかった。

その夜、政江は権右衛門に寝酒を出し、その中へ久振りに媚薬を混入した。