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ふしゅう

俘囚

海野 十三

「新青年」1934(昭和9)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,938 字 · 31 页

青空文庫

「そんな壺なんか、後廻しにし給え」と部長らしいのが云った。刑事たちは、その言葉を聞いて、また四方に散った。壺は床の上に抛り出されたままだった。

「どうも見つからん。これア犯人は逃げたのですぜ」

彼等はたしかにあたしたち夫婦を探しているものらしい。あたしは何とかして、此処にいることを知らせたかったが、重い鎖につながれた俘囚は天井裏の鼠ほどの音も出すことが出来なかった。そのうちに一行は見る見るうちに室を出ていって、あとはヒッソリ閑として機会は逃げてしまったのだ。

それにしても、夫は何処に行ったのだろう。

「オヤ、なんだろう?」あたしはそのとき、下の部屋に、なにか物の蠢く気配を感じた。

と、いきなりカタカタと、揺れだしたものがあった。

「あッ。壺だ!」

卓子の上から、床の上に下ろされた壺が、まるで中に生きものが入っているかのように、さも焦れったそうに揺れている。何か、入っているのだろうか。入っているとすると、猫か、小犬か、それとも椰子蟹ででもあろうか。いよいよこの家は、化物屋敷になったと思い、カタカタ揺り動く壺を、楽しく眺め暮した。なにしろ、それは近頃にない珍らしい活動玩具だったから。