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ふしゅう

俘囚

海野 十三

「新青年」1934(昭和9)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,938 字 · 31 页

青空文庫

(だが、それで安心出来るだろうか)

「とうとう、やったネ」

別な声が、背後から近づいた。松永の声だと判っていたが、ギクンとした。

「ちょっと手を貸してよ」

あたしは、拾ってきた懐中電灯で、足許に転がっている沢庵石の倍ほどもある大きな石を照した。

「どうするのさ」

「こっちへ転がして……」とゴロリと動かして、「ああ、もういいわよ」――あとは独りでやった。

「ウーンと、しょ!」

「奥さん、それはお止しなさい」と彼は慌てて停めたけれど、

「ウーンと、しょ!」

大きな石は、ゴロゴロ転がりだした。そして勢い凄じく、井戸の中に落ちていった。夫への最後の贈物だ。――ちょっと間を置いて、何とも名状できないような叫喚が、地の底から響いてきた。

松永は、あたしの傍にガタガタ慄えていた。

「さア、もう一度ウインチを使って、蓋をして頂戴よオ」

ギチギチとウインチの鎖が軋んで、井戸の上には、元のように、重い鉄蓋が載せられた。

「ちょっとその孔から、下を覗いて見てくれない」

鉄蓋の上には楕円形の覗き穴が明いていた。縦が二十センチ横が十五センチほどの穴である。

「飛んでもない……」

松永は駭いて尻込みをした。