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しゅぜんじものがたり
修禅寺物語
岡本 綺堂
「文芸倶楽部」1911(明治44)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,737 字 · 26 页
夜叉王 にわかにきこゆる人馬の物音は、何事かと思うたに、修禅寺へ夜討ちとは……。平家の残党か、鎌倉の討手か。こりゃ容易ならぬ大変じゃのう。
かえで 生憎に春彦どのはありあわさず、なんとしたことでござりましょうな。
夜叉王 われわれがうろうろ立ち騒いだとてなんの役にも立つまい。ただそのなりゆきを観ているばかりじゃ。まさかの時には父子が手をひいて立ち退くまでのこと。平家が勝とうが、源氏が勝とうが、北条が勝とうが、われわれにはかかり合いのないことじゃ。
かえで それじゃと言うて不意のいくさに、姉様はなんとなさりょうか。もし逃げ惑うて過失でも……。
夜叉王 いや、それも時の運じゃ、是非もない。姉にはまた姉の覚悟があろうよ。
(寺鐘と陣鐘とまじりてきこゆ。楓は起ちつ居つ、幾たびか門に出でて心痛の体。向うより春彦走り出づ。)
かえで おお、春彦どの。待ちかねました。
春彦 寄せ手は鎌倉の北条方、しかも夜討ちの相談を、測らず木かげで立聴きして、その由を御注進申し上ぎょうと、修禅寺までは駈けつけたが、前後の門はみな囲まれ、翼なければ入ることかなわず、残念ながらおめおめ戻った。