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びぜんてんいちぼう

備前天一坊

江見 水蔭

「現代大衆文学全集」平凡社、1928(昭和3)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,511 字 · 25 页

青空文庫

届書に俊良、食べ合せ物宜しからず、脾胃を害い頓死云々。正に立会候者也と書き立てた。

検視の役人も来ぬではなかったが、医師の証明があるので、一通り検分の上無事に引揚げた。

急いで死体は笹山へ送って火葬。尼の堕落が悲惨の最期。いわゆる仏説の自業自得であった。

六

天城屋敷の池田出羽の許へ早馬で駈着けたのは野末源之丞。奥書院にて人払いの上、密談の最中。池田出羽は当惑の色をその眉宇の間に示しながら。

「シテ、その小笠原金三郎とやら申す浪人の所持致す脇差に就て、御上には御心覚えあらせられるかあらせられぬか。一応御伺い致されたか」

源之丞は恐る恐る。

「御伺い致しましたところ、御覚えの程シカと御心には御留めあらせられぬとの御仰せ。しかし、御傍御用の日記取調べましたるところにては、初代長光の御脇差。こしらえは朱磯草研出しの蝋色鞘。山坂吉兵衛の小透し鍔に、鮫皮萌黄糸の大菱巻の。目貫には銀の輪蝶の御定紋。ちゃんと記録が御座りまする」

「ふむ、それに符合致す脇差を、浪人が所持するに相違無いな」

「左様に御座りまする」

「その金三郎と申す浪人の面体は」

「恐れ多い事ながら、御上に克似の箇所も御座りまする」