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きずあとのはいけい
傷痕の背景
豊島 与志雄
「中央公論」1929(昭和4)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,022 字 · 38 页
食卓の列の、半ばから後は人がなく、卓布と花と陶器とが淋しそう……。
その、座敷をすてた人々は、庭に散在していた。二三ヶ所に、卓子の寄合、椅子、長椅子、木のベンチ……。花も卓布もないが、大きな皿に堆く、サンドウィッチ、菓物、そして、サイダー、ビール、ウイスキー、コニャックなど。和洋種々の煙草……。強いリクールの、とろりとした液体が、煙草の煙にくもって……座敷よりも遙に、電燈の光と高張提燈の光との差を逆に、元気で粗野で騒々しく……。そしてあらゆる意味で少壮の、或は未完成の、型の出来ていない人々だった。
座敷では、時々、銚子を運ぶ女中たちが、酌はしないで往き来するだけが、無言の色彩を添えていた。彼女たちが、提燈の蝋燭を取代えたのは、もうだいぶ前のことだった。
この、田代家の、大震災記念の宴は、おかしな集会だった。料理が粗末で飲物が豊富なのは、多少その名にかなっていたが、そうした集りに当然あるべき、婦人や少年の姿は、少しも見えなかった。そしてただ、田代芳輔が、苦の活動範囲内の――今でも一派の糸を引いてる範囲内の、縁故の深い、重立った、男子ばかりであった。