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そう

僧

小川 未明

「新小説」1910(明治43)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,206 字 · 21 页

青空文庫

私は、死人の形相だと思った。漆のような髪は顔にかかって眼が落ち窪んで、手足が痩せて、その姿を見た時戦慄とした。私は、もはや長くないと思った。きっと坊さんのお出なされたのは、彼の娘を迎いに来られたのだと思う。

静かな、暗い夜であった。白髪の婆さんと向い合って、歯の抜けた頭の禿げた爺さんが坐っていた。暗いランプは、家の内を心もとなく照していた。

バラバラと窓に当る音がした。けれど婆さんは聞き付けずに尚お語り出した。

「彼大水のあった時より、あの悪病の流行た時が怖しかった。どうしてこの村は、人が長く落付かないだろう。私共も早く悴が一人前となって、店でも出すようになったら、町へ越して行きたいものだ。」

「あ、雨が降って来たな。」と耳を傾げていた爺が言った。

「暮方西の方が、大変に暗かった。静かな晩だから降るかも知れない。」

と婆が言った。

暫らく爺と婆と対い合って黙っていたが、外で雨の降る音がしとしとと聞えた。

「なんで坊さんは、この村にばかり来るんでしょう。」と不審に堪えぬという風で、婆が言った。

「何、この村の者が死に絶えてしまうまでやって来るだろう。」

といって、爺は眼を瞑ったまま下を向いて言った。