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あにのこえ

兄の声

小川 未明

「子供の広場」1946(昭和21)年4月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,426 字 · 9 页

青空文庫

」と、母は、目をしばたいていました。

しかし、それきり、兄は家へ帰らなかったのです。やはり特攻隊に入っていたのでした。あとで、このことも知ったのですが、兄はあのとき、いとまごいのつもりできて、わたしたちに気づかれぬように、アルバムから、父と母の写真をはいで持っていきました。

戦争中、特攻隊が、よく出発前、別れのことばを放送して故国にのこしたことがありますが、地域の関係からか、兄はこれに加わらなかったのです。しかしながら、ぼくは、現在でも、道をあるいているときとか、またぼんやり空想にふけっているときとか、そんなようなときに、どこからともなく、兄の声をきくことがあります。

ことにさんらんとして夕焼けのする晩方などに、あざやかといってもいいくらい、はっきりと、なつかしい兄の声をきくことがあります。

「おまえは、真に自由と、正義と、平和のために、生命のかぎりをつくせ!」と。

それは、短い生涯であったけれど、美と平和をこのうえなく愛した兄として、こういって、ぼくをはげましてくれるのは、まことに、当然のことと思われるのであります。