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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页

青空文庫

私はその空気に感染してしまった。

休暇が終って、教室で逢った時二人の胸がおどった。酒井君は寄宿舎にいたが、時間を打ち合わせて、逢っては河原を歩いたり、麦畑をさまよったりした。酒井君は袂の長い着物を着て、帽子をわざとひと所切って、リボンで結んだりしていた。丈高い穂麦の間を歩く時、二人は手を緊く握り合ってつないでいた。

酒井君は私にはどこかの公子のような気がした。生れがよくて、調子が高くて、性急な劇しい情熱を持っていた。手風琴など天才的にうまかった。教科書や試験勉強などかまわずに、外国の本を読んでいた。

教室でも授業中に振り向いて顔見合わせてはニッコリとサインしていた。

私はこの少年から影響された。ある天才的な、自由の雰囲気を。そして海岸線の匂いのする西洋趣味の流れがそそぎ込まれた。

私の勉強の態度はかわり始めた。学課の選り好みが始まり、席次とか、級長とかいうようなものを俗視しだした。

教室で地理の時間に文章を書いたりするようになった。ナショナル・リーダーというのが教科書なのを、ロイヤル・リーダーという絵や、紙質の高踏なのを読んだりしだした。秀才文壇に投書したりしだした。