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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页

青空文庫

女子大学に入ろうとする昔の幼ない少女よりも、今は心に祀る主キリスト、でなければ、陋巷に沈淪してもがいている泥の中のマリヤの事を思っていたのであろう。

綾野芳正という子は郡視学の子であった。この子は七つの年からずっと私の同級生だったが不幸な素質を受けていた。父は漢学者風の容貌で見るからに厳めしかったが、その頑固さは病的な生理的な癇癪と結びついていた。そして酒乱の性癖があった。が母は典型的な、明治風の賢夫人であった。美しく品位のある顔かたち、学問才芸と家政の切りまわし、夫に仕え、子供を教育する仕方、何ひとつ非の打ち所はなかった。自宅に綾野女塾という塾をひらいていて、私の姉や、従姉たちは裁縫や、手芸をこの塾に通って習ったものだ。

夫人は時折私の家へも挨拶に来られたが、立派な奥さんだと帰られた後で父母は噂していた。そんな夫人だったから、子供への教育に抜かりがあろう筈はなかった。私は時々芳正君のところへ遊びに行ったが、夫人の教育に熱心なことはその時の様子でもすぐ解った。学校にあるような、赤や、白の玉を連ねて算術を教える大きな西洋算盤がちゃんと部屋に置いてあった。