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いりむこじゅうまんりょう

入婿十万両

山本 周五郎

「婦人倶樂部」大日本雄辯會講談社 、1936(昭和11)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,650 字 · 22 页

青空文庫

「殿へもお暇を願ったと……?」

源兵衛はその一言でがっかりした。

「御承知くださいまするな」

「――――」

「では早急ながら支度がござりますゆえ」

と浅二郎が立とうとした時、

「お待ちくださいませ」

と云いながら不由が入ってきて、静かに浅二郎の前へ坐った。

「様子は次間にいて伺いました、大阪へお帰り遊ばすとのことでござりますが、それなればわたくしもお伴れくださいませ」

「――それは、何故でござるか」

「わたくしは貴方様の妻、妻は良人に従うが道でござります、――それに貴方様はいまわたくしを清浄無垢と仰せられましたが、わたくしはもはや身籠っておりまする」

これは驚くべき一言だった。

「何を仰せらるる」

浅二郎は呆れて、「御当家へ参って以来、一夜たりとも閨を共にせぬ事、御許御自身とく御承知の筈ではないか」

「例え閨は共にせずとも、夫婦して同じ家の内に棲めば良人の気が籠って妻は身籠ると、――下世話にも申してござりまする」

「や、や――うまいぞ!」

源兵衛がいきなり喚いた。

「うまいぞ娘、同じ家におれば、ひとつ寝せずとも男の気が籠って懐妊するか、あっぱれだ、よくそこへ気がついた、浅二郎こいつは道理だぞ」