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ろくがつ

六月

相馬 泰三

「早稲田文学」1913(大正2)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,673 字 · 37 页

青空文庫

このまま再び東京へ帰えるまいかとも思うている。

真夜中ごろ浅間山が大爆発をやらかした。今もなお地に響いて盛んに轟々と鳴っている。濛々たる黒煙の柱が天にもとどきそうだ。灰の雨が盛んに降っている。高原は一面に深い霧にとざされたように模糊としている。そして太陽が、まるで焼いた銅のような怪しい赤黒色に鈍って見える。

軽井沢へ僕が来たと言えば、僕が言うまでもなく、君は(そうか)と頷くだろう。全くその通りだ。僕はお今が見たいばかりでここへやって来たのだ。

一昨夜、また一人で大泥酔をした。昨日、宿酔の頭をかかえながら下宿の窓からぼんやり青空を眺めていたら、どうした工合か空が常になく馬鹿に高く見えるのだ。見ていれば見ているほどどこまでも涯しがなく高く感ぜられる。隣りの寺の屋敷にある大きな、高い榎の梢が、寂寞に堪えないといったような表情をして(実際、そんなに感ぜられた)軽くふわふわとそよいでいた。僕はわけもなく悲しくなって来た。何にも要らないような気がして、そして無性と誰かに会いたくなって来た。誰かと会っていねば一刻もいられないような気がして来たのだ。するとその時ふと、お今が僕の心の中に浮んで来た。