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ろっこうさんじょうのなつ

六甲山上の夏

九条 武子

「無憂華」実業之日本社、1927(昭和2)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,279 字 · 3 页

青空文庫

私は兄達や異国の人に伍して、毎日のように山道を散策していたが、日本の婦人にはほとんど合わなかった。はるか麓の方に阪神電車の走るのが見えて、ここは兵庫県の六甲山であることは慥かに知っている。しかし異国の人ばかり行き合うことが、何だかよその国にでも遊んでいるような感じがするのであった。

山の頂に見る入日の姿、それは夏の夕べのなつかしい眺めの一つである。私は考えるともなく、こんな歌を書きつけた。

落日は巨人の魂かわが魂か炎のごとく血汐の如し

熱しきった太陽は爛々と燃え、最後の残照を西の空一面に放ったまま、落人のごとく夜の世界の彼方へ沈んでゆく。落ち着いた夜の沈黙が、六甲山脈の波濤に迫るとき、生きとし生けるものすべては、始めて静けさの中に蘇えるのであった。

――私は夜の静けさの裡に蘇える無心の草木にも、敬虔な合掌の心持ちを覚える。青白い月光の流れが山荘の窓にしのび入る。冷やかな夜気を衿元に感じて月のみの庭に佇めば、丁度水の底にでも沈んでいるような感じがするのであった。

よき月夜すあしのつまのほの青う露にぬれたり芝生に立てば

家から家に遠いこの山の上は、しっとりと露ばんだ灌木の茂みを通して、はるか向うに走る電車の灯を望むのも、何か涙ぐましい心地がする。