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ろっこうさんじょうのなつ

六甲山上の夏

九条 武子

「無憂華」実業之日本社、1927(昭和2)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,279 字 · 3 页

青空文庫

薄紫の可憐な松虫草は、大空の星が落した花のような塵にもまみれず、爽やかな夏の朝を、高原のそこここに咲いていた。美しい糸を包んだ薄は日に/\伸びてゆき、山上の荘は秋もまだ訪ずれぬのに、昼さえ澄んだ虫の声をきくのであった。

海抜三千尺という山の上から望む茅渟の海は、遠く視野のはて、紀淡海峡を去来する汽船の煙が長く尾を引いて、行方も知れず空に消えてゆく。――山の上といっても、道がよく開けて散歩に楽なのと、日中でも七十三度ぐらいであるところからともすれば日傘も忘れて外に出る。けれど太陽はさすがに容赦なく射つづけるのに、それにも恐れずみんなは傘を忘れて散歩に出るほど涼しい六甲山上の夏――私は夏を迎えるたびに山上の夏をおもう。

ゴルフリンクから遊びつかれた人たちが帰ってくる。大かた異国の人ばかりであった。ゴルフもこの頃は日本人の遊びの一つになったけれども、今から七八年も前のその頃は、ゴルフの楽しみも異国の人のほかは、ほんの一部の人の享有するところであったらしい。異国の人はあらゆる運動を生活の中に取入れて、明るい、豊かな生活を創造しようとする。残念であるけれども日本の人、ことに老いた婦人たちは、運動などは子供の世界のことのように思って、歩くことさえも大儀がる。