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とううん
凍雲
矢田 津世子
「婦人文芸」1934(昭和9)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,121 字 · 29 页
鶏が時をつくっていた。
もう一度、と心に決めて敲いた。戸の音が妙に冴えているように感じられた。
仙太は戸を離れた。動こうとしない黒を「叱っ!」といって追い立てた。そして、懐ろの児も忘れて、項垂れて家へ帰った。
「この寒さに何処さ行ってた! 子供を殺す気か」
と父親が怒鳴った。
母親は赤子を受けとるとすぐ自分の懐ろに入れて、皺んだ袋のような乳房をあてがいながら、
「何んと、手この冷えていること! お前のお父さん酷えお父さんだな。よしよし、今すぐ牛乳のませてやるよ」
冷えきった赤子の手をしゃぶってやりながら、炉端へいざり寄った。
仙太は一言もいわずに次の間に入った。そして、寝床の上にうつ伏せになったなり、男泣きに泣いた。
仙太は、また、山に行きはじめた。
守山は、もう、黄色な山肌をすっかり現わしていた。雪はわずかに、陽蔭に汚れたまま残っていた。
女衆は、嫁菜や芹つみに、ずくずくする畔道や堀の岸に集った。
「仙太さんでねえしか」
女衆は手のひらで額へ陽かげをつくりながら声をかける。
「山さかい。山さ行ってもお高さん居ねえしてえ」
そして、どっと笑い合った。
町では、菅原孫市がとうとう町長に費消金をはらってもらったという評判だった。