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とううん
凍雲
矢田 津世子
「婦人文芸」1934(昭和9)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,121 字 · 29 页
町の人々は、菅原派とあぶらや派の半々に別れた。町会でも、兎角感情の衝突が頻発するようになり、あぶらやでは相当金を撒いているとも言われた。
仙太は町の噂には一切耳を藉さなかった。
お高が秋田市のさる大家へ乳母として一と月程前勤めに行ったという話をきかされた時も、別段動揺しなかった。昼間は、犬をつれて、山へ行った。銃は持たなかった。そして、家へ帰ると子供を抱いたまま炉端に坐りこんで、じっと物思いに沈んだ。
町では、仙太について、いろいろの取沙汰をしていた。しかし、仙太は、噂には無感覚になっていた。
五月の末であった。二三日雨が続いた。
赤子が腸カタルを起して、仙太は徹夜をつづけた。ひいひい、声を絞る赤子を抱いて、夜中部屋の中をとんとんと往き来した。ようよう泣き歇んで、横にしたかと思うと、すぐにまた声を絞った。仙太は、また、抱き上げて、とんとん、と歩きはじめる。
医者は、時候のせいだと言った。曖昧に笑いながら、
「なんといっても、母乳にかなわねえですからな」とも言った。
医者の帰ったあと、仙太は、永い間赤子の枕元に坐っていた。赤子は眼をつむったなり絶えだえに泣いた。