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はこだてのたいかについて
函館の大火について
寺田 寅彦
「中央公論」1934(昭和9)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,023 字 · 20 页
わが国で年々火災のために灰と煙になってしまう動産不動産の価格は実に二億円を超過している。年々火災のために生ずる死者の数は約二千人と見積もられている。十年たてば二十億円の金と二万人の命の損失である。関東震災の損害がいかに大きくてもそれは八十年か百年かに一回の出来事であるとすれば、これを年々根気よくこくめいに持続し繰り返す火事の災害に比すれば、長年の統計から見てはかえってそれほどのものではないと言われよう。
年に二千人と言えば全国的に見て僅少かもしれないが、それでも天然痘や猖紅熱で死ぬ人の数よりは多い。また年二億円の損失は日本の世帯から見て非常に大きいとは言われないかもしれないが、それでも輸入超過年額の幾割かに当たり、国防費の何十プロセントにはなりうる。
これほどの損害であるのに一般世間はもちろんのこと、為政の要路に当たる人々の大多数もこれについてほとんど全く無感覚であるかのように見えるのはいったいどういうわけであるか、実に不思議なようにも思われるのである。議会などでわずかばかりの予算の差額が問題になったり、またわずかな金のためにおおぜいの官吏の首を切ったり俸給を減らしたりするのも結構であるが、この火災による損失をいくぶんでも軽減することもたまには講究したらどんなものであろうかと思われる。