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はこだてのたいかについて

函館の大火について

寺田 寅彦

「中央公論」1934(昭和9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,023 字 · 20 页

青空文庫

またその延焼区域の住民家屋の種類、密集の程度にもよることもちろんである。これらの支配因子が与えられた場合に、火災が自由に延焼するとすればいかなる速度でいかなる面積に広がるかという問題についてたしかな解答を与えることは現在において困難である。しかしこれとても研究さえすれば次第に判明すべき種類の事がらである。この基礎的の方則が判明しない限り大火に対する有効な消防方針の決定されるはずはないのである。

火災の基礎的研究には単に自然科学方面のみならず、また心理学的方面、社会学的方面にも広大な分野が存在する。たとえば東京市の近年の火災について少しばかり調べてみた結果でも、市民一人あての失火の比率とか、また失火を発見して即座に消し止める比率とか、そういう人間的因子が、たとえば京橋区日本橋区のごとき区域と浅草本所のごとき区域とで顕著な区別のあることが発見されている。ともかくも、この種の研究を充分に進めた上で、消防署の配置や消火栓の分布を定めるのでなければ決して合理的とは言えないであろうと思われる。

これらの研究は化学者物理学者気象学者工学者はもちろん心理学者社会学者等の精鋭を集めてはじめて可能となるような難問題に当面するであろう。