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はこだてのたいかについて

函館の大火について

寺田 寅彦

「中央公論」1934(昭和9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,023 字 · 20 页

青空文庫

決して物ずきな少数学者の気まぐれな研究に任すべき性質のものでなく、消防吏員や保険会社の統計係の手にゆだねてそれで安心していられるようなものでもなく、国家の一機関として統制された研究所の研究室において徹底的系統的に研究さるべきものではないかと思われる。

西洋では今どきもう日本のような木造家屋集団の火災は容易に見られない。従ってこれに対する研究もまれであるのは当然である。しかし、西洋に木造都市の火事の研究がないからと言って日本人がそれに気兼ねをして研究を遠慮するには当たらない。それは、英独には地震が少ないからと言って日本で地震研究を怠る必要のないと同様である。ノルウェーの理学者が北光の研究で世界に覇をとなえており、近ごろの日本の地震学者の研究はようやく欧米学界の注意を引きつつある。しかしそれでもまだ灸治の研究をする医学者の少ないのと同じような特殊の心理から火事の研究をする理学者が少ないとしたらそれは日本のためになげかわしいことであろう。

アメリカでは都市の大火はなくても森林火災が頻繁でその損害も多大である。そのために特別な科学的研究機関もあり、あまり理想的ではないまでもともかくも各種の研究が行なわれ、その結果はある程度まで有効に予防と消火の実際に応用されている。