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はこだてのたいかについて
函館の大火について
寺田 寅彦
「中央公論」1934(昭和9)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,023 字 · 20 页
これはなんという不幸な運命の悪戯であろう。詳しく言えば、この日この火元から発した火によって必然焼かれうべき扇形の上にあたかも切ってはめたかのように函館全市が横たわっていたのである。
二十二日午前六時には低気圧中心はもうオホツク海に進出して邦領カラフトの東に位し、そのために東北地方から北海道南部はいずれもほとんど真西の風となっている。それで発火後風向はだんだんに南々西から西へ西へと回転して行ったに相違ない。このことがまた実に延焼区域を増大せしめるためにまるであつらえたかのように適応しているのである。もしも最初の南々西の風が発火後その方向を持続しながら風速を増大したのであったらおそらく火流は停車場付近を右翼の限界として海へ抜けてしまったであろうと思われるのが、不幸にも次第に西へ回った風の転向のために火流の針路が五稜郭の方面に向けられ、そのためにいっそう災害を大きくしたのではないかと想像される。この気象学者には予測さるべき風向の旋転のために死なずともよい多数の人が死んだのである。
火災中にしばしば風向が変わったと報ぜられているがこれは大火には必然な局部的随伴現象であって現場にいる人にとっては重大な意義をもつものであるが、延焼区域の大勢を支配するものではないから、上記の推測に影響を及ぼす性質のものではないと思わ