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はこだてのたいかについて

函館の大火について

寺田 寅彦

「中央公論」1934(昭和9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,023 字 · 20 页

青空文庫

江戸の火災の焼失区域を調べてみると、相応な風のあった場合にはほとんどきまって火元を「かなめ」として末広がりに、半開きの扇形に延焼している。これは理論上からも予期される事であり、またたとえば実験室において油をしみ込ませた石綿板の一点に放火して、電扇の風であおぐという実験をやってみてもわかることである。風速の強いときほど概してこの扇形の頂角が小さくなるのが普通で、極端な例として享保年間のある火事は麹町から発火して品川沖へまで焼け抜けたが、その焼失区域は横幅の平均わずかに一二町ぐらいで、まるで一直線の帯のような格好になっている。風がもっともっと強くなればすべての火事はほんとうに「吹き消される」はずである。しかし江戸大火の例で見ると、この焼失区域の扇形の頂角はざっと六十度から三十度の程度である。明暦大火の場合はかなりの烈風でおそらく十メートル以上の秒速であったと思われる根拠があるが、その時のこの頂角がだいたいにおいて、今度の函館の火元から焼失区域の外郭に接して引いた二つの直線のなす角に等しい。そうしてこの頂角を二等分する線の方向がほぼ発火当時の風向に近いのである。