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はつこい
初恋
矢崎 嵯峨の舎
「都の花」1889(明治22)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,226 字 · 39 页
そのうちに燭台の花を飾ッて酒宴が始まると、客の求めで娘は筑紫琴を調べたがどうして、なかなか糸竹の道にもすぐれたもので、その爪音の面白さ,自分は無論よくは分らなかッたが、調べが済むと並みいる人たちが口を極めて賞めそやした。娘は賞められて恥かしがり、この席に連なッているのをむしろ憂いことと思ッているらしく、話もせず、人から物を言いかけられると、言葉少なに答えをするばかり、始終下を向いていた,がその風はいかにも柔和でしとやかで、微塵非難をする廉もなく、何となく奥ゆかしいので、自分は余念もなくその風に見とれていた。
自分の父は武辺にも賢こくまた至ッて厳格な人で、夏冬ともに朝はお城の六ツの鐘がボーンと一ツ響くと、その二ツ目を聞かぬ間にもウ起き上ッて朝飯までは、兵書に眼をさらすという人であッた,それゆえ自分にも晏起はさせず、常に武芸を励むようにと教訓された。
自分はありがたいことには父のお蔭で弓馬鎗剣はもちろん、武士の表道具という芸道は何一ツ稽古に往かぬものはなかッたが、その中で自分の最も好いたものはというと弓で,百歩を隔てて、柳葉を射たという養由基、また大炊殿の夜合戦に兄の兜の星を射削ッて、敵軍の胆を冷やさせたという鎮西八郎の技倆、その技倆に達しようと、自分は毎日朝飯までは裏庭へ出て捲藁を射て励んでいた。