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はつつぼみ
初蕾
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 页
……座の空気はちぐはぐだった、中に一人、それが酒の強いという人だろう、色の黒い怒り肩の、ぎすぎすした調子で話す青年がいて、それが頻りに半之助をやりこめていた。内容はよくわからないが、「人間」とか「秩序」「道徳」「尊厳」などという言葉のむやみに出る、かたぐるしい議論ばかりだった。そして彼等を帰すどころか、却って半之助のほうが捉まってしまい、間もなく席を替えようと伴れだされていった。
別れ際に、
「すぐ帰って来る」
と云ったが、日が昏れても戻らないし、客の多い夜で、表も奥もいっぱいになった。これなら、戻って呉れないほうがいいと、諦らめていた。……昏れるじぶんはよく晴れて、星がいっぱいだったけれど、宵さがりから小雨になり、九時をまわると本降りになったので、たてこんだ客も早くひきあげ、十時には二た組ほど残るだけになった。お民はお伊勢参りの客に出ていた。三人づれの江戸の人で、裕福な商人とみえる中年の人たちだった。こちらにはよく通じない洒落を云われるので困ったが、おちついた静かな座敷は気持は楽だった。……十時ちょっと過ぎだろうか、酒を運んで来たお房という女中が、