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こくこく
刻々
宮本 百合子
「中央公論」1951(昭和26)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页
メリンスの小布団のついた椅子にかけながら、(主任の椅子の小布団は羽織裏の羽二重だが、他の連中の小布団は一様にメリンスなのだ)
「何なんです?」
と云った。
「書いてるじゃないか」
「何を?」
「――非合法出版物へ書いてるじゃないか」
「知らない」
「だァって」
中川はさも確信ありげに顎でしゃくうように笑って、
「現に君から原稿を貰った人間があるんだから仕様がないじゃないか」
「……そりゃ今の世の中には、いろんな種類の月給を貰っている奴があるんだから、そんなことを云う人間があるかもしれない」
蒼い中川の顔が変った。
「そりゃどういう意味だ」
「…………」
「とにかく、君達の同志はどんな場合にでも決して関係のない人間の名を出すことはしないもんだ。――同志だぜ、それを云っているのは……」
「……知らないものは知らないというしかないじゃありませんか」
監房に帰って、誰でもそうであろうが、自分は対手の云った言葉、目つき等を細かく思いかえし、敵の陣形を観察し、自身を堅める。
今野の容態は益々わるい。中耳炎ときまった。自分は、永久に日光が射し込まない奥のゴザ一枚はいつもジットリ穢れでしめっぽい監房の中を歩きながら指を折って日を数えた。