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こくこく

刻々

宮本 百合子

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页

青空文庫

こんな状態で二十七日までもつであろうか?

夜になると保護室の格子の前に水を張った洗面器が置かれた。夜なか誰かがそれで病人の濡手拭をしぼり直してやる。――

四月二十四日の日暮れがた、高等へ出された時、自分は岩手訛の主任にしつこく今野を出して手当をさせろと云った。

「あなたがたは、いつも家庭の平和とか親子の情とかやかましく云っているのだから、見す見す中耳炎と分っているのに放っといて、一家の主人を留置場で殺すことも出来ないでしょう」

「ふむ」

いがぐり頭を片手で後から撫であげ、唇をかむようにし、

「――大分苦しいらしいね」

「脳膜炎を起しかけてると思う……調べることなんか無いんだもの、ああやって置くのは実際ひどい」

「いや、医者がもうじき来ます、さっき電話をかけたから」

暫くして、

「もう来ているかしらんて」

と独言のように云い、スリッパのうしろを鳴らしながら室を出て行った。高等主任だけが机の下にスリッパをおいていて、室にいるときはそれと穿きかえるのである。

留置場へ戻され、扉があいたと同時に第一房の前の人だかりが目に映り、自分は、もう駄目か! と思わず手を握りつめた。