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こくこく
刻々
宮本 百合子
「中央公論」1951(昭和26)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页
小商人風の小柄な父親はセルの前をパッとひろげ襦袢を見せて椅子の端にかけ、肩を張って云っている。卑屈なりに今日は精一杯の抗議感を、その切口上のうちに表現しようと力をこめているのが私にまで感じられるのであった。
主任はいろいろきいている。しかし実は何もする気でない事は、その顔つきで分っている。傍できいていて自分は、この父親の態度が歯痒く、腹立たしいようになった。どうして、ズッパリと、何故娘を殺した! と正面からぶつかって行かないのだろう! 何故体あたりに抗議しないのであろう!
遂に不得要領のまま、
「では――そういう状態ですから一応御報告いたして置きます」
一応御報告というところへ云いつくせぬ小心な恨みをこめ、対手にはだが一向痛痒を与え得ず、父親が去ると、主任は椅子をずらして、
「どうです」
と自分に向った。
「ああいうのをきいて、何と感じます」
「あなた方が益々憎らしい」
「ふむ。――私は飽くまであなた方を憎むね。あんなおっとりした若い娘を煽動してストライキに引こんだのは誰の仕業かね?」
「ストライキをしていた時、あの父親はやめさせて呉れと警察へたのみはしなかった。