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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

番頭は松吉の顔を見た。

「いやそうかも知れませんねえ」

丁寧松は驚かなかった。

「それが本当かも知れませんねえ。実はね」というと丁寧松は、丁寧の調子を砕いてしまった。

「加賀屋の者じゃアないのだよ。連雀町の松吉なのさ。ちょっと見たいね、部屋の様子を」

「へえ、それじゃア親分さんで」

番頭はすっかり顫え上った。

「うん」と云ったがズイと上る。

「どうぞこちらへ……偉いことになったぞ」

不安に脅えた番頭を睨み、奥へ通った丁寧松は、またも丁寧な調子になった。

「ねえ番頭さん番頭さん、ビクビクなさるには及びませんよ。貴郎が人殺しをしたんじゃアなし、お咎めを受けるはずはない。だが」と云うときつくなった。

「嘘を云っちゃア不可ねえぜ!」

丁寧松ではなくなったのである。

胆を潰したのは番頭で、

「それでは昨夜のお侍様は、兇状持なのでございましょうか?」

「つまりそいつを調べに来たのさ。それで出張って来たってやつさ」

だがまたもや丁寧になった。

「立派な造作でございますねえ」

云いながら四辺を見廻したが、立派な造作を見たのではなく、間取りの具合を見たのらしい。

真中に廊下が通っていて、左右に座敷が並んでいる。