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ぜんきてんまやけ
前記天満焼
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页
「蔵番の東三だが、変だねえ」
何となく不安を感じたのだろう、お繁は頤を襟へ埋めたが、ちょうどこの頃宇和島鉄之進は、順賀橋の辺りを歩いていた。
18
本多中務大輔の邸を過ぎ、書替御役所の前を通り、南の方へ歩いて行く。
ヂリヂリと熱い夏の午後で、通っている人達にも元気がない。日陰を選んで汗を拭き拭き、力が抜けたように歩いて行く。ひとつは飢饉のためでもあった。大方の人達は栄養不良で、足に力がないのであった。
「南北三百二十間、東西一百三十間、六万六千六百余坪、南北西の三方へ、渠を作って河水を入れ、運漕に便しているお米倉、どれほどの米穀が入っていることか! いずれは素晴らしいものだろう。それを開いて施米したら、餓死するものもあるまいに、勝手な事情に遮られて、そうすることも出来ないものと見える」
心中でこんなことを思いながら、お米倉の方角へ眼をやった。すると、眼に付いたものがある。五六人の武士が話し合いながら、鉄之進の方へ来るのである。姿には異状はなかったが、様子に腑に落ちないところがあった。と云うのは鉄之進が眼をやった時、急に話を止めてしまって、揃って外方を向いたからである。