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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

岡引の松吉と「上州」である。

23

岡引の松吉と上州と、そうしてお久美の一団とは、当然衝突しなければならない。

「上州、お前は自由にするがいい、俺は逃げるぜ。相手が悪い!」

云いすてると岡引の松吉は、露地へ一散に駈け込んでしまった。

「いやはやまたも逃げ出しの番か、今日は朝からげんが悪い。……こいつがあたりまえの連中なら、何の俺だって逃げるものか。……ところが相手は大変者だ。のみならず今夜は大勢で、しかも狂人になっている。取り囲まれたら助からない」

そこで、一散に走るのであったが、お久美を頭に狂信者の群が、その後を追って走って来た。

「今朝方秘密の道場を、看破った人間にございます。連雀町の松吉だと、自分から宣って居りました。岡引に相違ございません」

こう云ったのは市郎右衛門で、脇差を抜いてひっ下げている。

「岡引といえば、官の犬、犬に嗅ぎ出された上からは、手入れをされると思わなければならない。手入れをされないその前に、是非とも命を取ってしまえ!」

龕を捧げたお久美である。

「今朝方仰せをかしこみまして、追いかけましてございますが、とうとうとり逃がしてしまいました。