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けんきょう
剣侠
国枝 史郎
「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页
を、微吟しながら歩いて行った。
遅く出た月が空にあったが、樹木が繁っているために、木洩れの月光がそこここへ、光の斑を置いているばかりで、あたりはほとんど闇であった。
不意に行手で閃めくものがあり、悲鳴がそれに続いて聞こえた。
ギョッとして浪之助は足を止めた。
(切られたらしい)と直感された。
(横へ逸れて行ってしまおうか)
ふとそんな気も起こったが、町人とは違い武士であった。
(卑怯な)と思い返して走って行った。
香具師――それも膏薬売らしい、膏薬箱を胸へかけた男が、右の胴から血を流し、その血の中に埋もれて居り、そうした死骸を見下ろしながら、一人の武士がその前に佇み、一人の女がその横にいて、血刀を懐紙で拭っているという、凄惨無慈悲の光景が、巨大な棒のように射して来ている木洩れの月光に照らされて、浪之助の眼に映った。
フーッと気が遠くなりそうであった。
そう、浪之助はもう少しで、気を失って仆れそうになった。
「貴殿のおいでを待っていました」
水品陣十郎がそう云った。
2
血刀を女に拭わせている武士、それは水品陣十郎であった。
「拙者水品陣十郎と申す、浪人でござる、お見知り置き下され」