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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

「林蔵親分はお気の毒な……」という、笹屋の主人の声が聞こえた。

(はてな?)と林蔵は足を止めた。

「林蔵親分はお気の毒な、お山さんの心の変わったのも知らず、高萩の親分の来ているのを、馬大尽だと嘘を云われても、真に受けてこんな俺らの所へなんか、穏しくおいでなさるんだからなあ」

4

答える内儀の声が聞こえた。

「お山という女の性悪には、妾も驚いてしまいました。馬を牛に乗り換えるもいいが、日頃お二人さんの張合っているのを、百も二百も承知の上で、林蔵親分を袖にして、猪之松親分へ血道をあげ、狎れつくとは性悪の骨張だよ」

林蔵は内緒の前を離れ、用を達すと裏梯子から、自分の部屋へ返って来た。

お山へ義理を立てるために、女を寝かしてはいなかった。

布団の上に胡座を組み、黙然として考え込んだ。

(お山はどうせ宿場女郎、売物買物で仕方ねえが、高萩の猪之松は顔役だ。四百五百の乾児共から、立てられている男じゃアねえか。俺とお山との関係を、知らねえこともねえはずだ。それでいて俺の女を取る。まあまあそれも仕方ねえとして、井上大尽だと偽って、俺の遊びの邪魔をするとは、男の風上にも置けねえ奴。