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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

相手の猪之松の剣の技、己と伯仲の間にあり寸分の油断さえ出来ないからであった。

が、そういう周囲の騒ぎも、今は全く静まっていた。数間を離れて百姓や旅人、そういう人々の見物の群が、円陣を作って見守っているばかりで、気味悪いばかりに寂静としていた。

二本の刀が山形をなし、朝の黄味深い日の光の中で、微動しながら浮いている。

二人ながら感じていた。――

(ただ目茶々々に刀を振り廻して、相手を切って斃せばよいという、そういう果し合いは演ぜられない。男と男だ、人も見ている。後日の取沙汰も恐ろしい。討つものなら立派に討とう! 討たれるものなら立派に討たれよう!)

二人ながら心身疲労していた。

気疲労! 気疲労! 恐ろしい気疲労!

技が勝れているだけに、伎倆が伯仲であるだけに、その気疲労も甚だしいのであった。

向かい合っていた二本の刀の、その切先がやがて徐々に、双方から寄って来た。

見よ二人ながら踏み出している右足の爪先が蝮を作り、地を刻んで一寸二寸と、相手に向かって進むではないか。

ぢ――ン!

音は立たなかった。

が、ぢ――ンと音立つように、互いの切先が触れ合った。