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かご

加護

宮本 百合子

「大阪毎日新聞(夕刊)」1920(大正9)年8月17日~28日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,147 字 · 33 页

青空文庫

信仰にも、同じように、そういう試みの時期があるのを考えると、尚更、お幾には、黙っていられない心地がした。

自分でも経験がある。そこさえ辛棒し、目を閉った気で根を尽しているうちには、いつか晴れ晴れとした天地に入れる機運が廻って来るのである。

水を割った葡萄酒などを飲み、幾分元気になった頃、お幾は、そろそろとお恵さんに尋ねた。

「あなた、この頃も毎日通っておいでなの?」

「ええ。通ってはいますけれどね……なにしろ遠いので――今日なんかはやっと家まで辿り着いた位ですわ」

「遠いったってお恵さんS町までですもの。ここからそんなじゃあありますまい? そうね、どの位あるか」

お恵さんは、ぱっちりと眼を開け、心持上目で笑い出しながら、お幾を見た。

「あなた、御自分でお歩きになったことがあって?」

お幾も、この、穏やかな問いには、急処を突かれた心持がした。半分は大儀から、半分は、余裕のある生活の習慣から、彼女は、十町と、自分の足で歩いたということはなかった。

電車の通じる東京でありながら、それを利用出来ない不便な町筋を、寒い朝まだき、小一里歩かなければならない者の苦労を、お幾は、思っても見なかったのである。