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かご
加護
宮本 百合子
「大阪毎日新聞(夕刊)」1920(大正9)年8月17日~28日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,147 字 · 33 页
さすがに彼女も、直ぐには次の言葉が継げなかった。然し、お幾は、間もなく生れ付きの楽天的な気質で、さらりと心を取なおした。今、これ位のことで怯んでいるべき場合ではない。若し一寸でも、お恵さんの心に懈怠心がきざしているとしたら、それを剪(つ)んで、本道に還して遣るのは、自分を措いて、誰がするだろう。
「ねえ、お恵さん」
お幾は徐ろに、口を切った。
「私は、どうもあなたの信心も峠に掛って来たと思いますよ。御自分ではまだ気がおつきなさらないかもしれないけれど――私も、随分、いろいろな人を見ていますからね」
「そうでしょうか……でも」
床の上に坐り、羽織を着換えながら、お恵さんは、いつもの穏やかな調子で、反問した。
「峠にかかるにしては、あまり早いじゃあありませんか。お話を伺い始めて、いくらにもなりませんよ」
「時からいえばそうですけれどね――同じ痲疹(はしか)でも、早くしてしまう児と、大きくなってする子とありましょう? やっぱりあれと同じですわね。あなたも、ほんとの信心に入れる者か入れない者か、神様のお試しに逢い始めなすったのではないかと思いますよ」
お幾さんは、それから、聴きての心を傷(そこな)わないように、しかも、自分の足場は一歩も譲らない熱誠で、神の懲戒ということを説明した。