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じゅうえんさつ

十円札

芥川 竜之介

穷得叮当响的作家堀川保吉,口袋里只剩六十钱,却还惦记丝帽、音乐会和女人。一张十円钞票的出现,能让他体面地撑过这一天吗?

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,647 字 · 18 页

青空文庫

粟野さんもやはり紺サアジの背広に新らしい麦藁帽をかぶっている。保吉は丁寧にお時儀をした。

「お早うございます。」

「大分蒸すようになりましたね。」

「お嬢さんはいかがですか? 御病気のように聞きましたが、……」

「難有う。やっと昨日退院しました。」

粟野さんの前に出た保吉は別人のように慇懃である。これは少しも虚礼ではない。彼は粟野さんの語学的天才に頗る敬意を抱いている。行年六十の粟野さんは羅甸語のシイザアを教えていた。今も勿論英吉利語を始め、いろいろの近代語に通じている。保吉はいつか粟野さんの Asino ――ではなかったかも知れない、が、とにかくそんな名前の伊太利語の本を読んでいるのに少からず驚嘆した。しかし敬意を抱いているのは語学的天才のためばかりではない。粟野さんはいかにも長者らしい寛厚の風を具えている。保吉は英吉利語の教科書の中に難解の個所を発見すると、必ず粟野さんに教わりに出かけた。難解の、――もっとも時間を節約するために、時には辞書を引いて見ずに教わりに出かけたこともない訣ではない。が、こう云う場合には粟野さんに対する礼儀上、当惑の風を装うことに全力を尽したのも事実である。