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じゅうえんさつ
十円札
穷得叮当响的作家堀川保吉,口袋里只剩六十钱,却还惦记丝帽、音乐会和女人。一张十円钞票的出现,能让他体面地撑过这一天吗?
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,647 字 · 18 页
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岩とも泥とも見当のつかぬ、灰色をなすった断崖は高だかと曇天に聳えている。そのまた断崖のてっぺんは草とも木とも見当のつかぬ、白茶けた緑を煙らせている。保吉はこの断崖の下をぼんやり一人歩いて行った。三十分汽車に揺られた後、さらにまた三十分足らず砂埃りの道を歩かせられるのは勿論永久の苦痛である。苦痛?――いや、苦痛ではない。惰力の法則はいつのまにか苦痛という意識さえ奪ってしまった。彼は毎日無感激にこの退屈そのものに似た断崖の下を歩いている。地獄の業苦を受くることは必ずしも我々の悲劇ではない。我々の悲劇は地獄の業苦を業苦と感ぜずにいることである。彼はこう云う悲劇の外へ一週に一度ずつ躍り出していた。が、ズボンのポケットの底に六十何銭しか残っていない今は、……
「お早う。」
突然声をかけたのは首席教官の粟野さんである。粟野さんは五十を越しているであろう。色の黒い、近眼鏡をかけた、幾分か猫背の紳士である。由来保吉の勤めている海軍の学校の教官は時代を超越した紺サアジ以外に、いかなる背広をも着たことはない。