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ちはやかんのめいろ
千早館の迷路
海野 十三
「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页
春部はこれまでいつも面憎いほど取澄していたが、このときばかりは若い女子動員のように騒ぎ立てた。
「困りましたね。なにか重大なものを発見したらしいが、この千早館の監視は一秒たりとも中断することが出来ないのです。一体何ですか、あなたの発見したものは……」
「あの人の着ていた服地です」
「えっ、何といいました」
「田川のいつも着ている服の裏地なんです。それがこまかく切られて、鋏でつまんだ髪の毛のようになっているんですが、それが池の中に浮いているんです……」
「間違なしですか。見誤りじゃないでしょうね」
「いいえ、決して間違いではありません。わたくしは念のために、竹を拾って池の水に漬け、そのこまかく切られた服の裏地をそっと引揚げたのです。これがそうです。この瑠璃色とくちなし色と緋色の絹糸を、こんな風に織った服の裏地は、わたくしがあの人へ贈ったもので、他にはない筈のものです。どうしてあの人の服の裏地が、あんな池の中に浮いていたのか、ああ、恐ろしい……」
「なるほど。そうだとしたら、これは重大だ」
「ねえ帆村さん。千早館の入口を探すよりも、あの池をさらえる方が急ぎますのよ。