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うまいち

午市

宮本 百合子

「婦人公論」1922(大正11)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,146 字 · 17 页

青空文庫

おせいは、話に聞き、頭に描いていた吉原という遊蕩地が、こんなであろうとは知らなかった。もっと華やかな、情痴的な何物かが通行人にさえうつつをぬかせる雰囲気を作っているのかと思っていた。然し、これを見て、たとえ情慾でも起せる人間があるということは、彼女に不思議なほどに感じられる。

おせいは、奇怪な、信じられない心持を抱いて、先に立ち、黙ってそこを出た。大通の左右には、絶間なく小路があり、そのまた左右がひしひし、同様な、きらつく、然し人気ない建物で詰められている。

行っても行ってもつきない。いやになるほど、同じような建物が、余りきらきら、余り寂しく立っている。――おせいが、深く黙り込んでしまったせいか、小関はつぎ穂がなさそうに、格子の間を出たり入ったりして、先に立った。

或るところでは、まだやっとはたち位の学生が、わざと顔を隠すように背を丸めて台の男と差し向いながら、何かひそひそ囁き合っている。

或るところでは、独りで入って行った小関を見つけて、男が、いきなり、低く早口に、

「あ。旦那、ちょいと、ちょいと、好い話」

と呼び止めながら、扇を持った手を延して中腰になる。